──アプリのリリースに踏み切った背景と当時の課題を教えてください。
齋藤様:「ちばぎんアプリ」をリリースしたのは2020年、その背景にはお客さまとの接触機会の減少がありました。「ちばぎんアプリ」では、スマートフォンで入出金管理や残高照会などが行えます。
実際、ここ10年で窓口を利用されるお客さまの数は減少していました。さらにコロナ禍が到来し、窓口に来ることも困難になった。そんなお客さまとの新たな接点を速やかに作りたいという思いから、アプリのリリースに踏み切ったのです。
リリース時の目標は、弊行のデジタルチャネルを活用するユーザーを50万弱から150万まで伸ばすこと。150万というのは普段から弊行をご利用いただいているお客さまの約半数にあたります。スマートフォンが普及し、ユーザー登録も無料であることから「自然と広まっていくのではないか」と楽観的に考えていました。
しかし蓋を開けてみると思うようには進んでいかなかった 。そこから紙のDMや窓口・対面営業でのご案内などのプロモーションも行いましたが、目をみはるような結果は見られませんでした。
──プロモーションと聞いてデジタルの施策を想像しましたが、紙のDMや対面での紹介という手法をとったのですね。
齋藤様:「ちばぎんアプリ」は口座と紐づけることで利用できます。そのため、口座を既に持っている方に限定して、プロモーションを行う必要があり、デジタルでのプロモーションには不向きでした。
弊行では口座の開設のほとんどが対面の窓口で行われており、デジタル上での接点は少数です。住所・氏名・年齢、住宅の所持、お子さまの有無などの個人情報を預からせていただいているものの、すぐにデジタル広告に活用できるデータではありません。
例えば、年齢、性別、居住地、興味関心などに基づいてターゲティングし、SNS広告を実施することはできます。しかし、弊行の口座登録の有無は含まれておらず、無駄なリーチが生まれてしまう。窓口でのご案内や電話セールス、紙のDMの方が精緻にリーチができます。ただし、電話セールスでは日中不在のお客さまも多いですし、紙のDMは一通80円~100円と費用が高いため、頻繁に実施することが難しい。その結果、プロモーションの打ち手がなくなってしまったんです。
──発注の打ち手がかなり限られていた中「レディクル」からどんな提案があったのですか?
齋藤様:「レディクル」には、デジタルプロモーション、リアルプロモーションを問わず、複数社紹介いただきました。アプリの登録者数を増やしたいという大きな目標はありましたが、プロモーションの予算も明確に決まっていない段階から相談したため、「レディクル」の営業担当者との対話を通じて、要件を固めていきました。
発注するポイントになったのは、予算の部分です。「ちばぎんアプリ」は無料でご利用いただけます。アプリを新たな顧客接点にすることは、弊行にとっても非常に重要な施策ではあるものの、ユーザー数の拡大がそのまま売上につながるわけではありません。それ故あまり大きな予算はかけられず、どうしてもスモールスタートになります。
その中で、スモールスタートでも有効な提案は何か、どの程度の予算感なら実施できそうかを見極めるため、良いと思った提案を都度上司に伝え、実現可能性を探らせてもらったんです。
──紹介を受けた企業からは、どんな提案がありましたか?
齋藤様:イベントや展示会、SNS広告もありましたし、運用型のデジタル広告もありました。先ほどデジタル広告が不向きだというのも、こうした提案を受けて理解を深めた部分です。「レディクル」は自社の膨大なネットワークから企業をピックアップしてくれるため、イメージを広げることや、アイディアのブラッシュアップにつながりました。
最終的には、ATMの周辺にPOPや什器を設置し、アプリの告知を行いました。ATMは銀行の窓口よりも利用頻度が高く、大切な顧客接点です。ここを告知に活用するというのは盲点でした。
また、その会社に発注すると決めたのは、提案内容や予算以外に、担当者の「人柄」の部分も大きい。千葉県の遠方の支店まで自主的に視察に行ってくださり、ATMの現地の様子などを盛り込んだ提案書をいただきました。スモールスタートからいい信頼関係を築けそうという点で弊行にマッチしていましたね。
そうしたプロモーションのおかげもあり、現在はアプリ単体で60万を超えるお客さまにご利用いただいています。
──様々な企業と会うことが、アイディアを広げることにつながったということですが、発注における大切なエッセンスは何になるのでしょうか?
齋藤様:発注で大切なことは、目標をぶらさず、頓挫させないことなのではないかと考えています。意志がぶれてしまい頓挫してしまえば、発注元と発注先の双方にとって非効率で、不幸な結果を生むことになる。
今回は「ちばぎんアプリ」のユーザー数を拡大するという目標があり、必ずプロモーションをやるという強い意志がありました。これが重要なポイントだったと思いますね。
また、気軽に相談できる相手と、忖度なしで壁打ちをし合えたことも、今回のプロモーションの実施につながったと考えています。銀行は信頼や安定を重視する傾向がある。その良さはありつつも、外に目を向けず自分たちで話し合うだけでは、なかなか新しいアイディアは生まれづらい。「レディクル」や外部パートナーの斬新なアイディアにはその壁を乗り越えられる可能性があります。銀行だけでなく、新しいチャレンジを進める企業にとって、そうした存在も必要なのではないでしょうか。