そもそも地方自治体は、何を目的にLINE公式アカウントを開設することにしたのか。市庁側は、LINE活用をスタートする前に、市民側、市庁側でそれぞれ抱えていた課題を次のように整理する。
●市民側で抱えていた課題
・自分の欲しい行政情報は、市のホームページにアクセスして取りに行かなければならない
・市のサイトには膨大な情報が掲載されており、自分の欲しい情報を見つけにくい
・行政手続きや申請を行う際は、市庁舎や市のサービスセンターまで出向く必要がある
●市庁側で抱えていた課題
・市民向けにプッシュ型の情報通知を行う汎用的なツールがない
・コロナワクチン関連など特定の情報を必要とする市民、子育て世代の市民など、属性別に発信できる情報提供ツールがない
・今後、行政手続きの電子化を進めるうえでは、スマートフォンを使って容易に申請フォームまでたどり着ける“入口”が必要となる
防災やゴミ収集といった一部の用途を除くと、市庁側では市民に対してプッシュ型で情報発信できるデジタルツールを持っていなかった。市庁側担当者は「情報ニーズがあるのはわかっていても、それを届ける良い手だてがありませんでした」と振り返る。
情報発信や電子申請のツールとして、国が運用する「マイナポータル」を使うことも検討した。だが利用者側でマイナンバーカードが必要になるなど、利用のハードルの高さが難点だった。「その一方で、LINEはすでに多くの市民がスマートフォンにインストールしており、親しみやすいツールでした」と市庁側担当者は説明する。
当時、他の自治体でもLINE公式アカウントを行政サービスに活用する動きが始まりつつあったこともあり、地方自治体でもLINE活用の検討を開始した。そこにFIXERからLINE活用についての提案があり、その動きは一気に本格化した。
地方自治体がLINE公式アカウントを開設した。その後は市庁内の各部局に協力を依頼して、提供するサービスを徐々に拡充させてきた。なお、システムはLINE Fukuokaが提供する「LINE SMART CITY GovTechプログラム」のソースコードをベースにFIXERが開発を行い、Microsoft Azureクラウド上に実装されている。
地方自治体のトーク画面を開くと、わかりやすいボタンやチャット型の情報ナビゲーションが表示される。さらに「受信設定」ボタンを押すと、「コロナウイルス関連」「安全安心防災メール」「学校給食情報」「市議会情報」など、セグメント別の情報受信設定もできるようになっている。市民自身が必要な情報を選ぶことで、プッシュ型の情報配信が受けられる仕組みだ。
さらに、新たな機能/サービスの追加を目指して実証実験も行っている。たとえば、市内の道路で見つけた損傷箇所を写真に撮ってLINEで報告することで、自動的に工事業者に通知され、迅速な改修につなげるという機能だ。現在はまだ一般公開はしておらず、市の職員による“ベータテスト”の最中だという。
「道路の損傷状況をスマホのカメラで撮影し、地図上で場所を指定したうえで送信してもらいます。すると、自動的にその地域を担当する道路の工事業者にメールが送信され、業者はすぐ現場に向かうことができます。同時に、その報告は『Backlog』(プロジェクト管理ツール)にも登録されるようになっており、市庁の担当職員はBacklogを見ることで補修作業のステータスが確認できます」
リアルタイムな情報を発信するサービスもある。市立図書館では、職員が館内や駐車場の混雑状況をリアルタイムに発信し始めた。「職員が目視で確認して混雑具合のボタンを押すというシンプルな仕組みですが、利用者からは好評をいただいています」