2021.10.02
現行システムの老朽化や業務要件の変化により、システムリプレイスを検討する企業は多く存在します。
とはいえ、「どう進めればよいのか分からない」「何から手をつければいいのか見えてこない」といった不安を抱えているケースも少なくありません。
システムリプレイスは、単なる入れ替えではなく、業務効率やセキュリティの向上を図る重要なプロジェクトです。準備不足のまま進めてしまうと、業務への影響や費用の無駄、移行後のトラブルといったリスクが高まります。
本記事では、システムリプレイスの基本的な考え方から、代表的な4つの方式、進行時の注意点までを解説します。自社に適した進め方を見極め、スムーズな移行を実現しましょう。
「リプレイス（replace）」とは直訳すると「交換する」「置き換える」という意味です。システムリプレイスとは、既存のシステムを新たなシステムへと刷新・入れ替える作業全般を指します。
このプロジェクトは単なる「ソフトの更新」ではありません。多くの場合、システムの仕様・構造・運用方針そのものを見直し、企業の業務プロセスや基幹機能に関わる重大な見直しが伴います。
よく似た言葉に「マイグレーション」がありますが、両者は似て非なるものです。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| リプレイス | 現行システムを新たな仕様や構成で再構築すること |
| マイグレーション | システム環境やプラットフォームの変更を中心に行うこと（例：オンプレからクラウド） |
つまり、リプレイスはより広範な再設計・再構築を伴う作業であり、単なる移行作業にとどまりません。
社会やテクノロジーの急激な変化により、企業に求められる業務システムも大きく進化しています。古いシステムをそのまま使い続けると、次のような課題が顕在化します。
セキュリティ脆弱性の放置
最新業務に対応できないUI/UX
ベンダーの保守サポート終了
DX（デジタルトランスフォーメーション）の推進遅れ
こうした課題を解決する手段として、システムのリプレイスが不可欠となってきているのです。
システムリプレイスの主な目的は、現行システムに内在する課題を解消し、業務効率や安定性を高めることにあります。経年劣化したシステムを使い続けていると、以下のような問題が発生しやすくなります。
処理速度の低下や頻発するシステム障害
ベンダーやOSのサポート終了によるセキュリティリスクの増大
拡張性・柔軟性の欠如による業務とのミスマッチ
特に、在庫管理や給与計算などの基幹システムがトラブルを起こすと、全社的な業務停止につながるリスクがあるため、早めのリプレイス対応が重要です。
また、業務の変化に合わせてシステム要件も進化するため、「現行のフローに適応できない」「機能が時代遅れ」といった状況を打破する手段としても、リプレイスは有効です。
さらに、セキュリティ強化やクラウド環境への移行を目的とした近代化も、近年多くの企業が取り組んでいるリプレイスの動機となっています。こうした背景から、システムリプレイスは単なる入れ替え作業ではなく、企業の将来の競争力を左右する戦略的なプロジェクトといえるでしょう。
システムリプレイスを成功させるには、事前準備の徹底と、運用体制の整備が不可欠です。中でも重要なのは、以下の2点です。
リプレイス時には、現行システムの全機能をそのまま引き継ぐのではなく、本当に必要な機能だけを選別することが重要です。不要な機能まで搭載してしまうと、開発コストや工数が無駄に膨らみ、逆に使い勝手が悪くなる可能性もあります。
そのため、以下のような観点から機能・フローの棚卸しを行いましょう。
現行システムで対応できている業務と課題
実際の業務フローとのギャップ
廃止しても問題ない機能の洗い出し
新システムに期待する改善ポイント
こうした分析をもとに、目的と予算に応じた機能の取捨選択を行うことが成功の鍵です。
システムリプレイスでは、新旧システムの並行運用や一時的な業務変更が避けられないケースもあります。そのため、現場ユーザーからの協力と理解を得るための情報共有が重要になります。
具体的には以下の準備が効果的です。
リプレイスの目的やスケジュールを関係部署に事前説明
トラブル発生時の対応フローと連絡体制の明確化
操作マニュアルや新システムのトレーニング準備
新しいシステムが円滑に浸透するかどうかは、ユーザーの心理的な準備と現場サポート体制にかかっているといっても過言ではありません。
システムリプレイスには、大きく分けて4つの方式が存在します。どの方式を選ぶかは、システムの重要性、業務への影響、移行時のリスク許容度などにより最適な選択肢が異なります。以下に、それぞれの特徴とメリット・デメリットを整理します。
一括移行方式（ビッグバン方式）は、現行システムから新システムへ一度に完全移行する方法です。名前のとおり、全機能を一斉に切り替えるシンプルな方式であり、短期間での導入を目指す企業に適しています。
一度の作業でリプレイスが完了するため、全体の工程が明確で進行しやすい
段階的な切り替えと比較して、移行にかかるコストや作業負荷を最小限に抑えられる
データ連携や機能の併存といった移行中の煩雑な作業が不要
特に、現行システムの保守期限が迫っている場合や、利用者が限定される小～中規模のシステムでは、効率的なリプレイス方法となります。
移行作業時に業務を完全に停止させる必要があるため、業務への影響が大きくなる可能性がある
一斉移行のため、リスクが集中しやすく、不具合が発生すると事業全体に影響が及ぶ
事前準備やシミュレーションが不十分だと、初期トラブルが深刻化しやすい
この方式は、業務停止時間を明確に確保できる企業や、短期導入を重視するプロジェクトに向いています。ただし、切り替えの成否がプロジェクト全体を左右するため、万全の準備とリハーサルが必要不可欠です。
段階移行方式は、現行システムの各機能を複数のフェーズに分けて少しずつ新システムへ移行する手法です。特に大規模なシステムにおいては、一度に全体を切り替えるリスクを避けられる点が評価されています。
一度に切り替えるのではなく段階的に移行するため、エラーや障害の影響範囲を最小限に抑えられる
システム全体を止めずに作業できるため、業務への影響が比較的少ない
段階ごとにテストや調整が可能で、品質を担保しながらリプレイスできる
特に、既存のシステムを長時間停止できない現場や、複雑な機能が絡む基幹システムの刷新には向いている方法です。
移行期間が長くなるため、プロジェクト全体の進行管理が難しくなる
現行システムと新システムの併用期間が発生し、業務が煩雑になりがち
両システムでのデータ同期や整合性の維持が手間となり、コスト増加の要因にも
この方式は、リスクを分散して慎重に移行を進めたい企業におすすめです。ただし、切り替え期間中は現場の運用フローが複雑化しやすいため、業務フローの一時的な混乱への対策も欠かせません。
並行移行方式は、現行システムと新システムを一定期間、同時に稼働させるリプレイス手法です。両システムを並行運用することで、新旧の動作や結果を比較・検証しながら、安全に移行を進められるのが大きな特長です。
旧システムを停止せずに移行作業を進められるため、業務を止める必要がない
両システムの動作を比較することで、新システムの不具合や仕様のズレを早期に発見・修正できる
安全性や互換性を確認しながら進行できるため、リスクを最小限に抑えた段階的な切り替えが可能
この方式は、特にシステム停止が許されない業務クリティカルな環境において有効です。例えば、金融や医療、インフラ系システムのリプレイスではよく採用されています。
新旧2つのシステムを同時に運用・管理する必要があるため、担当者の負荷が増大
システム同士でデータ連携・整合性の維持が必要となり、管理コストや手間もかかる
並行期間中は、業務オペレーションも複雑化しやすいため、教育・周知にも配慮が必要
万全な移行計画と体制が整っていることが成功のカギを握るため、開発会社との緻密な連携やスケジュール調整も欠かせません。
パイロット方式は、特定の部門で切り替え作業を行い、その結果を見ながらそれぞれの部門で切り替え作業を行う方法です。
切り替え作業自体は一括移行方式で行われるため、一括移行方式と段階移行方式を組み合わせたやり方といえるでしょう。
先に特定の部門だけを新しいシステムに切り替えるため、エラーが発生しても業務への影響を一部だけに抑えられる方法です。
ただし、先に切り替えた部門では問題なく稼働できたとしても、ほかの部門ではエラーが発生する場合もあります。
メリット
・リスクを局所化できる
・エラー発生時の影響が少ない
特定の部門のみを一括移行させてから検証するため、リスクを局所化させ、エラーが起きた際の影響範囲を小さくできます。
デメリット
・移行が完了した後にエラーが発生する場合もある
部門ごとに仕様が異なるため、全部門を移行し、システムを稼働させた段階で不具合が生じる可能性があります。
システムリプレイスは業務への影響範囲が大きく、慎重な対応が求められます。プロジェクトの規模が大きくなるほど、計画や準備の甘さがそのままリスクへと直結します。ここでは、リプレイスを成功に導くために押さえておくべき4つのポイントを紹介します。
1つ目は、プロジェクトの重要性を関係者全体に共有し、リプレイスの意義を明確にすること。
2つ目は、予測されるリスクを事前に洗い出し、それを踏まえた現実的なスケジュールと進行管理体制を整えること。
3つ目は、現行システムの仕様や運用方法を正しく把握し、新システムに必要な機能を適切に設計すること。
そして4つ目は、豊富な実績とサポート体制を備えた信頼できる開発パートナーを見つけることです。
どれかひとつでも欠けてしまえば、導入後のトラブルや業務停止といった深刻な問題を招く恐れがあります。リプレイスを単なる「技術的な置き換え」ではなく、業務全体の改善を見据えた経営判断として捉え、組織全体で取り組むことが成功への鍵です。
リプレイスを成功させるための第一歩は、「なぜこのリプレイスが必要なのか」を組織全体で共有することです。情報システム部門だけで進めてしまうと、現場の理解不足から非協力的な雰囲気が生まれたり、トラブルが発生しても対応が遅れてしまう可能性があります。
特に、現行システムと深く関わる部署ほど、移行による業務変更の影響を受けやすくなります。そのため、リプレイスの目的や重要性を丁寧に説明し、関係者の意識をそろえることが不可欠です。
「現場の協力が得られないまま進めた結果、必要な要件が漏れていた」「操作方法が分からず、混乱が生じた」といった事例は少なくありません。こうした事態を防ぐには、リプレイスを「全社的なプロジェクト」と位置づけ、初期段階から巻き込む工夫が求められます。
周知は一度きりではなく、定期的な情報共有や関係者向け説明会の実施などを通じて、段階的に理解を深めていくことが重要です。
システムリプレイスでは、「計画の質」がプロジェクト全体の成否を左右すると言っても過言ではありません。とくに、予想外のトラブルに対応できるよう、リスクを見越したスケジュールと体制の構築が重要です。
リプレイスには、データ移行の失敗や互換性トラブル、想定外の業務影響など、さまざまなリスクが潜んでいます。これらを最初から完璧に回避するのは難しくても、あらかじめ発生可能性と影響度を洗い出し、「どのタイミングで・どんな対処をするか」を具体的に決めておくことが、スムーズな対応につながります。
たとえば、万一の遅延やエラーに備えて、バッファ（余裕）を持たせたスケジューリングを行い、関係者との確認工程を段階的に設けておくなどの対策が有効です。
また、想定されるトラブルごとに、誰がどのように判断・対応するかを事前に整理しておくことで、実際の混乱を最小限に抑えることができます。
システムリプレイスを成功に導くためには、まず現行システムの仕様や運用状況を正確に把握することが不可欠です。現状を十分に理解しないまま新システムへの移行を進めてしまうと、思わぬ不具合や業務の混乱を引き起こすリスクがあります。
確認すべき項目としては、以下のような点が挙げられます。
現行システムで日常的に使用されている機能と、その重要度
実際の運用フローとその中で発生している課題
システム内で使用されているデータ構造やファイル形式
過去に発生したトラブルとその対応履歴
これらを事前に整理しておけば、新システムに必要な要素を過不足なく取り込むことができ、移行時のギャップも最小限に抑えられます。
さらに、現行システムで評価されている機能や利便性の高い操作なども確認しておくことで、ユーザーにとって使いやすい新システムの構築にもつながります。
システムリプレイスを円滑に進めるためには、信頼できるシステム開発会社との連携が不可欠です。リプレイスでは単に新しいシステムを作るだけでなく、現行システムの運用知識、既存業務の把握、そして将来を見据えた提案力が求められます。
特に注意すべきポイントは以下のとおりです。
自社の業務や目的に合った提案ができるか
過去に類似のリプレイス実績があるか
導入後の保守・サポート体制が整っているか
コミュニケーションや対応スピードに信頼感があるか
一見して価格やスピードだけで選びたくなりますが、運用開始後のトラブルや使い勝手の悪さは、最終的に大きな損失に繋がることもあります。だからこそ、実績・対応力・サポートの3点はしっかり見極めたいところです。
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システムリプレイスは、業務の安定性や効率性を保つうえで非常に重要なプロジェクトです。しかし、準備が不十分なまま進めると、業務に支障をきたすリスクも高まります。だからこそ、事前の現状把握や適切なリプレイス方式の選定、全社での意識共有が欠かせません。
また、リプレイスには高い専門性が求められるため、信頼できる開発会社とのパートナーシップも成功のカギを握ります。要件の整理やスケジュール管理、リスク対策まで含めて相談できるプロの力を借りることで、スムーズなシステム移行が可能になります。
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